アークプラズマ研究班

Arc Heater Wind Tunnel

この研究は東京都市大学の生体認知工学研究室とドイツStuttgart大学のIRSと共同にしています.

はじめに

ようこそ、アーク班へ
このページは東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 小紫・小泉研究室「アーク 研究班」の紹介HPです。
アーク班では、数キロワット級アーク加熱型空気プラズマ気流の生成とその診断法の開発の二つを大きな柱として研究しています。
研究室は柏キャンパスにあります。このページを見て本研究室に興味をお持ちになられた方は、いつでも見学にいらしてください。
アーク班の研究紹介
風洞開発と気流診断

アーク班では,アークジェットを用いた高エンタルピー風洞の開発と,その気流診断のためのレーザー吸収分光法の開発を大きな柱として研 究を進めています.ここでは,アーク風洞とレーザー吸収分光法について,説明します.


アーク風洞

アーク風洞とは,アーク放電を利用し,作動気体をジュール加熱によって加熱し,ノズル加速によって超音速流を生成するものです.
背景
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惑星大気圏に再突入する宇宙機を開発する際には、その再突入時の高温環境から機体を守るための材料開発,耐久試験などが必要となります。しかし、コストの問題などから毎回実機を再突入をさせて実験できるわけではありません。そこで、再突入時に発生するような高温環境を地上で模擬する必要があります.しかし、実際の再突入時の環境は,気流速度にしておよそ8km/s,温度が数千度という環境で,その環境を完全に再現することは困難です.そこで,さまざまな目的にあわせて,いろいろな高エンタルピー風洞が用いられます。
さまざまな種類の高エンタルピー風洞のなかでも,アーク風洞はより高いエンタルピー気流を生成することができ,また長時間の作動が可能であるため,古くから材料試験に用いられてきました.
アーク風洞は電極構造の違いからいくつかの種類に分類されますが,本研究班では,構造が容易なコンストリクタ型アーク風洞を製作し研究を行っています。


原理

イグナイトのための高電圧により,一部のガスが電離します.次第に電子密度が増して,アーク放電が形成され,作動気体がこのアークコラムを通過し,高温になり解離反応が起きます.プラズマ化した気体はその熱エネルギーをノズル膨張部で運動エネルギーに変換し,高エンタルピー気体として放出されます.


最近の課題
アーク風洞の欠点としては,活性ガスによる電極損耗があります.通常のアーク風洞では,タングステンが陰極材料として用いられ,銅がアノード材料として用いられています.しかし,タングステンは酸化反応により,低融点の酸化タングステンとなるために酸素を含んだ作動ガス中では使用が困難となります.この問題の解決方法として,酸素ガスを陰極後方から供給するというシステムもありますが,本研究室では,タングステンに変わる陰極材料としてジルコニウムに注目して,陰極材料を変えることによって陰極損耗の問題を解決しようと研究を進めています.

レーザー吸収分光法 (Laser Absorption Spectroscopy)

レーザー吸収分光法とは,原子(分子)がある波長のレーザーを吸収し,励起することを利用した測定法で,レーザーのエネルギー変位から,数密度,並進(回転,振動)温度,流速を知ることが出来ます.
背景

アーク風洞によってえられた高エンタルピー気流の特性を知ることは,TPSの試験のため,また,適切な安全率で機体を保護するためにも重要です.気流診断の方法には大きく分けて,接触法といわれる直接プローブを気流に挿入して計測を行うものと,非接触法といわれる気流を乱すことのない計測法があります.ピトー管測定や熱流速測定などに代表されるプローブ法では,測定系自体が気流に影響を与えてしまうおそれがあります.一方,分光法などの非接触法では,そのような心配はありません.分光法には,プラズマから出る光を波長分解して測定する発光分光をはじめ、プラズマに吸収される光を観察する吸収分光、それらを組み合わせるレーザー誘起蛍光法などいくつかの手法があります。本研究班では,これら様々な分光法の中でも,波長可変レーザーをもちいた吸収分光法によって,国内外さまざまな風洞の気流診断を行ってきました.
洞計測に適したレーザー吸収分光法ですが,地球大気圏再突入を模擬した空気プラズマ気流では,吸収分光法の感度不足の原因により,酸素原子,窒素原子の吸収プロファイルは十分に観測されていません.そこで,高感度吸収分光法の適用が必要となります.本研究班では,高感度吸収分光法をプラズマ風洞計測に適用することを目的に研究しています.


原理

原子は離散的な励起エネルギー分布をもちます.左の図は酸素原子における,励起エネルギー準位の一部を表しています.ある二つの準位間のエネルギー差に相当する波長をもったレーザーが気流中を通過すると,原子は上準位に励起されます.このとき,いくつかの物理的要因から吸収はある拡がりをもった吸収プロファイルとして観測されます.この吸収プロファイルから,並進温度,数密度,気流速度を求めることが出来ます.


柏実験室
ここでは,柏キャンパス実験棟の実験室について紹介します.実験室はCW班やRP班などいくつかの班と共同で使用しています.古くから大切に使われてきたものから,最新の実験器具まで,充実した設備環境で研究を進めることができます.
写真は実験室のアーク班の一画です.奥に真空チャンバーがあり,光学台も2台あり,充実しています.

マイクロ波放電管

マイクロ波放電管は,アーク風洞とは異なり純酸素での作動も可能であるので,酸素原子をターゲットとした吸収分光法において参照セルとして用いられたり,またアーク風洞に比べて作動が容易であるため,新しい測定手法の開発の過程で,まずはマイクロ波放電管で測定を行うこともあります.


アーク風洞

Type Ⅰ 2000年度 開発

現在のアーク班で、最初に開発された実験用アークジェット.特徴として二次元ノズルを装着することが可能ですが,現在は使用されていません.


Type Ⅱ 2001年度 開発

酸素を用いて実験を行った最初のアーク風洞.


Type Ⅲ 2002年度 開発

効率的に酸素を乖離させるために、酸素導入ポートの位置を工夫した改良型アークジェット。しかし,酸素が上手く混合していないことが過去の研究により明らかになりました.


Type ? 2007年度 開発

酸素が十分に混合していない問題を解決するために作られた予混合型のアークジェット.カソードの材料や冷却についても工夫が施されました.


その他の施設
アーク班では,開発した風洞診断法を他の研究施設にも適用し,さまざまな風洞に対して計測を行っています.日本航空研究開発機構(JAXA)やStuttgart大学とも共同研究をさせていただき,大型アーク風洞に対して気流診断を行ってきました.ここでは,そのアーク風洞について少し紹介します.

JAXA 調布航空宇宙センター

セグメント型アーク風洞

投入電力750kW,設計マッハ数4.8,ノズル出口径115mmの大型風洞.


Stuttgart大学 (Institute of Space Systems)

コンストリクタ型アーク風洞

コンストリクタ型でありながら作動ガス供給方法の工夫と磁場印加により,空気流での作動か可能.


誘導加熱風洞

投入電力110kW,電極がないために,活性ガスを作動ガスとすることも可能.


博士論文

氏名 Name
日付・表題 Date and title
野村哲史
2013
Highly Sensitive and Point-Measurement Laser Spectroscopy of High Enthalpy Flow
髙柳大樹
2007
Application of High-Sensitive Laser Absorption Spectroscopy to High Enthalpy Flow Diagnostics
松井信
2005
Application of Laser Absorption Spectroscopy to High Enthalpy Flow Diagnostics

修士論文

氏名 Name
日付・表題 Date and title
2014
アーク加熱風洞試験におけるレーザー照射による 熱防御材表面温度制御
2013
光学的に厚いプラズマ流におけるレーザー診断法の開発
2010
プラズマ風洞計測におけるレーザー吸収分光法の応用とその課題
2008
High sensitive laser absorption spectroscopy with Cr:LiSAF
2006
原子状酸素源としてのアーク加熱風洞の開発
2005
高感度半導体レーザー吸収分光法の研究
2003
吸収分光法によるアーク風洞プラズマの並進温度計測
2002
Laser Absorption Spectroscopy of Arc-heater Plumes
2002
アーク風洞プルームの化学組成と酸素解離度
2001
半導体レーザー吸収分光法による高エンタルピー気流中の原子状酸素測定