ホールスラスタ

ホールスラスタとは?
  ホールスラスタ は人工衛星に搭載される宇宙推進機、その中でも電気推進機と呼ばれるエンジンの一種です。燃料を燃焼させる化学推進機と違い、電気エネルギーを消費して推進力を作り出します。電気推進は推進剤の加速方法により分類され、ホールスラスタはイオンエンジンと同様、静電場によるクーロン力をイオンに与えて加速する静電加速に分類されます。他に電気エネルギーで推進剤を加熱してノズルで加速する電熱加速型や、磁場を印加してローレンツ力で加速させる電磁加速型があります。
ホールスラスタの研究開発は1950年代から1960年代にかけてアメリカとロシア(旧ソ連)において研究され始め、1971年に打ち上げられたロシアの人工衛星メテオールに搭載され初オペレーションが行われました。以来、研究は続いており、ロシアではSPTシリーズ等が製品化され、すでに100機以上が運用してきました。
 
作動原理
  ホールスラスタは大きく4つの部位から構成されています。すなわち、静電場を形成するアノード、放電と加速が同時に行われる加速チャンネル、電子をトラップする磁場を印加する磁気回路、そして電子を外部からスラスタに供給するとともに排出されるイオンビームを中和するカソードです。また、ホールスラスタは主に加速チャンネルの形状から2形式に分類されます:

    マグネティックレイヤ型はチャンネル長がチャンネル幅より長く、チャンネル壁が絶縁体で出来ています。ロシアのSPTシリーズが代表的で実績が多く、安定作動に定評があります。

    アノードレイヤ型はチャンネル長がチャンネル長より短く、チャンネル壁が導電体で出来ています。ロシアのTALシリーズが代表的で高性能であることが特徴です。

どちらの形式においても、作動原理は同一で、外部にあるカソードから電子が放出されて、その一部が出口から加速チャンネル内に流入します。そして、加速チャンネル内の磁場と電場により電子が周方向にドリフトしてホール電流を発生させます。陽極から流入した推進剤はこのホール電流により放電してプラズマとなり、その中のイオンが静電場により加速され出口から排出されます。排出されたイオンビームにカソードから電子が照射され中和します。これによりスラスタとプラズマが共に電荷的に中性となり互いにクーロン力により引き合わないようになります。
推進力は1 g程度ですが、排出されるイオンの速度は10 km/s程度です。



ホールスラスタの原理概図  作動中のホールスラスタ 
 
現在の研究内容と将来の目標
  私たちの研究班ではマグネティックレイヤ型とアノードレイヤ型の両形式のホールスラスタの研究を行っており、スラスタの開発、プローブによるプラズマ診断、数値解析などを行っております。
詳細につきましては、 論文、またはこちらのホールスラスタ研究班のページにてご紹介しております。