プラズマの謎を解明する

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ホールスラスタのプラズマ物理

ホールスラスタという宇宙推進機に用いられるイオン源を用いて、プラズマ物理に関する研究を行っています。 ホールスラスタは基本的に軸対象な構造を持つ推進機ですが、周方向に伝播するプラズマ振動現象が存在します。 このプラズマ振動が、磁場を横切る方向の電子の輸送に関わるとして近年注目されています。 ホールスラスタの基本原理は、軸方向電場と半径方向磁場によるExBドリフトで周方向にホール電流を誘起することです。 これと同じ原理によって、プラズマ振動によって周方向電場が生まれると、軸方向へと電子の流れが生まれます。 周方向のプラズマ振動がどのように生じるか、そしてその結果生じる周方向電場よって電子の軸方向輸送がどのように影響を受けるか。 ホールスラスタの理解と性能向上にはこれらの解明が必須です。

周方向物理と電子輸送現象の解明について、数値シミュレーションと実験の両方から研究を行っています。 周方向のプラズマ振動がどのように生じるか、ということに対しては、数値シミュレーションと線形安定性解析を駆使して調査を行なっています。 また周方向プラズマ分布が電子の軸方向輸送にどう影響するか、ということに対しては、非常にユニークな実験的研究を行なっています。 あえて周方向非一様に推進剤供給などを行うことによって周方向非一様性を人工的に作り、推進機内部プラズマ特性や推進機性能が どのように変化するか、実験と数値解析によって調査しています。 実験では東京大学が保有する真空チャンバーを用いて推進機作動を行い、推進性能評価やプローブ計測などを行なっています。 また東京大学では特にアノードレイヤ型と呼ばれる独自性の高いホールスラスタの研究開発を行なっています。

ホールスラスタ数値シミュレーション

ホールスラスタの設計開発も数値シミュレーション先行のComputer-Aided-Engineering (CAE)で行われるようになってきており、高い忠実度の数値シミュレーション技術が必要不可欠になってきています。 ホールスラスタは基本的には軸対称な形状であるため、従来は軸方向−半径方向の2次元モデルで計算されていました。 しかし最近の研究で、周方向のプラズマ振動現象が磁化された電子の輸送に関わっており、推進機全体のプラズマ挙動が大きく影響を受けていることが明らかになってきました。

私たちのホールスラスタ解析は周方向の物理をプラズマ輸送の記述に取り入れたSelf-consistentなモデルであるという特徴があります。 周方向プラズマ振動現象は運動論モデルや流体モデルによる数値シミュレーションのほか、線形安定性解析も用いて調査しています。 周方向プラズマ振動現象の解析を通じて得られたプラズマ輸送特性は軸対称モデルへと反映され、推進機の正確な性能予測へと役立てられます。 このように、軸方向−周方向と軸方向−半径方向の2つの2次元計算を連成させた解析を行うことにより、 自己同一性の高いプラズマ輸送特性を用いたプラズマ流解析を行おうとしています。 また私たちのシミュレーションコードでは、独自に開発した双曲型方程式系を用いた数値スキームを用いており、 計算手法の観点からも特色のあるものとなっています。

磁気プラズマデオービット

近年多くの小型衛星が開発され打ち上げられていますが、これらの衛星による宇宙デブリが問題視されています。 小型衛星が宇宙デブリとなることを防ぐためには、ミッションが終わった後の衛星を軌道から落とす(デオービット)必要があります。 私たちは、軌道上プラズマによる抗力を利用した磁気プラズマデオービットと呼ばれる新しい手法を提案し研究しています。 この手法は小型衛星の姿勢制御用磁気トルカ(MTQ)が作る磁場と軌道上プラズマとの干渉を利用してプラズマ抗力を発生させるものです。 既に搭載してあるMTQを利用するため、デオービットのための装置を追加で搭載する必要がない、という点が特長です。

磁気プラズマデオービットの有効性を検証するため、衛星周りプラズマ流の数値シミュレーションを行っています。 実際に小型衛星に10 Am2程度のMTQを持たせて、軌道上プラズマ(主に原子状酸素イオン)を流して計算を行ってみると、衛星の前方にバウショックが形成され、衛星の周りにはプラズマの空洞が現れます。 衛星に近づくイオンは、これらの構造によってその軌道を大きく曲げられます。 このイオンの流れを曲げたときの反力が、プラズマ抗力として小型衛星に働きます。 より短期間での小型衛星のデオービットを実現させるため、このプラズマ抗力を増大させる研究を行っています。