プラズマ流シミュレーション

ホールスラスタ
ホールスラスタの設計開発も数値シミュレーション先行のComputer-Aided-Engineering (CAE)で行われるようになってきており、高い忠実度の数値シミュレーション技術が必要不可欠になってきています。ホールスラスタは基本的には軸対称な形状であるため、従来は軸方向−半径方向の2次元モデルで計算されていました。しかし最近の研究で、周方向のプラズマ振動現象が磁化された電子の輸送に関わっており、推進機全体のプラズマ挙動が大きく影響を受けていることが明らかになってきました。

私たちのホールスラスタ解析は周方向の物理をプラズマ輸送の記述に取り入れたSelf-consistentなモデルであるという特徴があります。周方向プラズマ振動現象は運動論モデルや流体モデルによる数値シミュレーションのほか、線形安定性解析も用いて調査しています。周方向プラズマ振動現象の解析を通じて得られたプラズマ輸送特性は軸対称モデルへと反映され、推進機の正確な性能予測へと役立てられます。また私たちのシミュレーションコードでは、独自に開発した双曲型方程式系を用いた数値スキームを用いており、計算手法の観点からも特色のあるものとなっています。

ミリ波/レーザー放電・デトネーション
Microwave-supported detonation (MSD)やLaser-supported detonation (LSD)の伝播メカニズムは多くが謎に包まれています。燃焼による化学デトネーションでは、衝撃波が先行し、衝撃波圧縮された燃料が燃焼を起こしていますが、MSDやLSDの伝播速度はこの化学デトーネションの空気力学では説明できず、別の視点が必要となっています。またそもそもMSDとLSDではプラズマの進展の様子や構造が異なっているほか、入射ビーム強度や波長などにも依存していくつかのモードが存在することが明らかとなってきています。

私たちの目標はMSDやLSDの理論を確立することです。最終的にはMSDやLSD、さらにはそれぞれで観測されるいくつかのモードに対する普遍的な理論の構築を目指しています。 MSDやLSDはプラズマの波が衝撃波を先行するOverdriven detonationであるという仮説のもと理論の構築・検証を進めています。MSDとLSDの数値シミュレーションを並行して進めており、特に伝播速度に関して計算結果と実験結果を比較することで物理モデルの妥当性検証を行っています。これらの非常にユニークな物理現象の数値シミュレーションを通じて、私たちはプラズマ物理の最前線を開拓しています。

数値スキーム開発
プラズマ流の数値シミュレーションでは、イオンや中性粒子など重粒子の流れに加えて、電子流体を扱う必要があります。多くのプラズマ装置では磁場閉じ込めの技術が用いられますが、磁場によって磁化された電子の流れには強い異方性が生じることが知られています。磁化電子流体の流れは主に異方性拡散方程式によって記述されますが、この式の数値計算には大きい誤差が生まれる、数値的な不安定が生まれるなどの困難さが伴います。従来のこの問題に対するアプローチは、磁力線にぴったり沿った計算格子を作って計算する、というものでした。しかしながらこのアプローチには計算格子の作成が煩雑である、磁場形状が変化するような問題には対応できない、などの問題点がありました。

私たちは磁化電子流体の異方性拡散問題に対し、従来用いられてきた拡散方程式ではなく、双曲型方程式系を用いて計算する新しい計算手法を提案し開発しています。この手法は、二階の空間微分を持つ拡散方程式を、一階の空間微分のみを持つ複数の式に数学的に変換します。得られた双曲型方程式系は圧縮性CFDの分野で研究されてきた、正確かつ効率的なスキームによって計算されます。このアプローチによって、磁力線沿った計算格子を用いなくとも、磁化電子流体を安定かつ正確に解くことが可能となりました。