月資源レーザー還元研究班

Laser-induced reduction of alumina from moon resources

はじめに

ようこそ、月資源還元班へ。
ここは 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 小紫・小泉研究室「月資源レーザー還元研究班」のHPです。
我々の研究班は、月資源のひとつである酸化アルミニウムの新たな還元方法について研究しています。

背景

現在宇宙における滞在拠点の建設計画が各国各機関で練られており、日本においてもJAXAが宇宙探査の方針として約20年後の月面拠点建設を掲げています。
その建築材料および月面での生命活動に必要な酸素を得るために考えられるのが、月資源の利用です。地球からの運搬に頼らず月面で金属と酸素を生成することで、地球からの物資輸送に比べてコストの削減および時間の短縮が期待できます。

そこで我々の研究班では、月資源のうち25%を占める酸化アルミニウムをレーザーにより還元する手法について研究しています。この方法であれば、月面でも作り出せる電力しか消耗せず、地球からの輸送に頼ることなく必要物資の生産を行うことができます。


還元の原理

酸化還元反応の進む方向は、酸素の分圧および温度によって決定されます。その関係を示しているのが左の図のようなエリンガムダイアグラムというグラフです。縦軸はギブズの自由エネルギーを示しており、0より大きい領域では還元反応が、小さい領域では酸化反応が優越となります。ここから酸化アルミニウムの還元には約4000℃が必要であるとわかります。


レーザー維持プラズマによる還元

これまで研究してきたレーザーを用いた還元方法として、レーザーから作られたプラズマの加熱により酸化アルミニウムの粉末を還元する方法があります。レーザーにより作られたプラズマをレーザー維持プラズマ(=Laser-Sustained Plasma)の頭文字を取ってLSPと呼んでいます。LSPは中心温度が15000℃にも達し、この超高温で酸化アルミニウムを加熱します。
この方法により酸化アルミニウムの還元に成功しましたが、LSPの維持にレーザーエネルギーが使われるため還元の効率が低くとどまりました。そこで、効率のさらなる向上を目指し、現在は別の方法での還元について研究しています。



レーザーアブレーションによる還元

現在はレーザーアブレーションを用いた還元方法について研究しています。
レーザーを固形の酸化アルミニウムに集光し、高密度のエネルギーにより瞬間的に加熱するという方法です。この方法ではLSPを介さずレーザーで直接加熱するため、より効率の高い還元が期待できます。実際の実験時の写真のように、加熱されたアルミナは円柱状にプラズマを噴出し、強烈に白く発光します。この現象をアブレーションと呼んでいます。

この方法でも酸化アルミニウムの還元に成功しました。今後は効率の測定および生成されたアルミニウムと酸素の回収系の構築について研究を進めていきます。



真空チャンバー

写真手前右側の窓からレーザーを導入し、装置内のアルミナを加熱します。
チャンバーの側面に複数の観測窓が付いており、スペクトルの測定や、チャンバー内部の撮影が可能です。


CO2 レーザー

定格出力2kWの連続発振CO2レーザーです。ここから照射されたレーザーをビームエキスパンダーを通してビーム径を拡大したのち、ZnSeレンズを用いてアルミナに集光します。


原著論文

Alumina Reduction by Coupling Laser Ablation and Laser Sustained Plasma,
Soichiro SANO, Ryota SOGA, Maximillian Frank, Kimiya KOMURASAKI, Hiroyuki KOIZUMI, and Tsuruo KOBAYASHI, Frontier of Applied Plasma Technology, Vol.9 (2016), No.2, pp. 49-54.

Alumina reduction by laser sustained plasma for aluminum-based renewable energy cycling,
Makoto Matsui, Naohiro Fukuji, Masakatsu Nakano, Kimiya Komurasaki, Yoshihiro Arakawa, Tetsuya Goto, Hirofumi Shirakata, J. Renewable Sustainable Energy 5, 039101 (2013).

発光分光によるレーザープラズマ風洞気流の気流特性とアルミナ還元効率の評価,
福路直大、松井信、山極芳樹、中野正勝、小林明、小紫公也、荒川義博、後藤徹也、白形弘文, プラズマ応用科学 Vol.21, No. 1, (2013) pp. 47-50.

修士論文

氏名 Name
日付・表題 Date and title
2011
レーザー維持プラズマを用いたアルミナ還元技術に関する研究

学士論文

氏名 Name
日付・表題 Date and title
2016
月資源利用を目指したレーザーによるアルミナアブレーション還元実験
2015
レーザー維持プラズマによるアルミナアブレーションガスの還元実験
2014
CO2連続レーザーによるアブレーション実験
2013
レーザーアブレーションによるアルミナ還元の基礎研究

共同研究
日本エクス・クロン(株) 2012.1.1.- 「プラズマジェットによる酸化アルミニウム還元技術」

<関連研究先>
静岡大学 松井信研究室
都立産業技術高専 中野正勝研究室

科研費
挑戦的萌芽研究 2014-04-01 – 2017-03-31 「レーザープラズマ風洞を用いた革新的アルミナ還元技術」


アルミエネルギーサイクル

酸化アルミニウムのレーザー還元は宇宙のみならず地上でも有用です。
二酸化炭素を排出しない自然エネルギーによる発電は、その不安定性により利用が小規模にとどまっています。そこで余剰の電力を用いてレーザーにより酸化アルミニウムを還元しアルミニウムを生成することで、エネルギーをアルミニウムという形で貯蔵します。アルミニウムは水と反応することで水素を生じるのでエネルギーを取り出すことができるのです。よって、酸化アルミニウムのレーザー還元により自然エネルギーによる発電を安定化できます。
このようにアルミニウムを媒介とした電力の貯蔵および利用のサイクルをアルミエネルギーサイクルと言います。


CWレーザー推進

以前はCWレーザー推進について研究していました。
CWレーザー推進機について簡単に説明します。 ここでCWレーザーとはContinuous Wave=連続発振レーザーという意味です。 レーザーにはこの他にパルス状に発振するものもあります。くわしくはこちら
この推進機は地球や人工衛星などから照射されたレーザーを受けて、それをエネルギーに変換する機関です。 レーザーをエネルギーに変換する方法はいろいろあるのですが、私たちはレーザーからプラズマを作り(LSP)、それで推進剤を加熱する方法を研究していました。
右は、研究室で製作した推進機の作動実験中の写真です。


プラズマ風洞

レーザー推進機の排気ジェットを風洞として利用する研究もしていました。
たとえば地球や金星などにスペースシャトルが突入するとき、大気によってシャトルの表面はとても加熱されます。そういった機体の周りにある気体の影響をを地上で模擬するために、乗り物に風を吹き付ける装置を風洞と呼びます。くわしくはこちら