月資源レーザー還元

Laser-induced reduction of alumina from lunar resources

はじめに

ようこそ、月資源レーザー還元班へ。
ここは 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 小紫・小泉研究室「月資源レーザー還元研究班」のHPです。
我々の研究班は、レーザーアブレーションを用いた月資源還元について研究しています。

背景

現在宇宙における滞在拠点の建設計画が各国各機関で練られており、日本においてもJAXAが宇宙探査の方針として2030年の月面拠点建設を掲げています。
その建築資材および月面での生命活動に必要な酸素の獲得手段として検討されているのが、月資源利用です。 地球からの運搬に頼らず月面で金属と酸素を生成することで、地球からの物資輸送と比較してコスト削減および時間短縮が期待できます。

そこで我々の研究班では、代表的月資源であるアルミナ(酸化アルミニウム)のレーザー還元について研究しています。 この方法であれば、地球からの物資輸送に頼ることなく必要物資の生産を行うことができます。


還元の原理

酸化還元反応の進む方向は、酸素の分圧および温度によって決定されます。右の図は、プルームに平衡状態を仮定したときの還元率マップです。還元率とは、プルーム中に存在するアルミニウム中で単体のアルミニウム原子として存在するものの割合です。横軸が温度、縦軸が圧力を表しています。グラフから、高温かつ低圧であるほど還元率が高いことがわかります。現在、レーザーアブレーション法により4000 K, 1 atmで還元率32%を達成しています。


レーザー維持プラズマによる還元

これまで研究してきたレーザーを用いた還元方法として、レーザーから作られたプラズマの加熱により酸化アルミニウムの粉末を還元する方法があります。レーザーにより作られたプラズマをレーザー維持プラズマ(=Laser-Sustained Plasma)の頭文字を取ってLSPと呼んでいます。LSPは中心温度が15000℃にも達し、この超高温で酸化アルミニウムを加熱します。
この方法により酸化アルミニウムの還元に成功しましたが、LSPの維持にレーザーエネルギーが使われるため還元の効率が低くとどまりました。そこで、効率のさらなる向上を目指し、現在は別の方法での還元について研究しています。



レーザーアブレーションによる還元

現在はレーザーアブレーションを用いた還元方法について研究しています。
レーザーを固形の酸化アルミニウムに集光し、高密度のエネルギーにより瞬間的に加熱するという方法です。この方法ではLSPを介さずレーザーで直接加熱するため、より効率の高い還元が期待できます。実際の実験時の写真のように、加熱されたアルミナは円柱状にプラズマを噴出し、強烈に白く発光します。この現象をアブレーションと呼んでいます。

この方法でも酸化アルミニウムの還元に成功しました。今後は効率の測定および生成されたアルミニウムと酸素の回収系の構築について研究を進めていきます。




アルミエネルギーサイクル

酸化アルミニウムのレーザー還元は宇宙のみならず地上でも有用です。
二酸化炭素を排出しない自然エネルギーによる発電は、その不安定性により利用が小規模にとどまっています。そこで余剰の電力を用いてレーザーにより酸化アルミニウムを還元しアルミニウムを生成することで、エネルギーをアルミニウムという形で貯蔵します。アルミニウムは水と反応することで水素を生じるのでエネルギーを取り出すことができるのです。よって、酸化アルミニウムのレーザー還元により自然エネルギーによる発電を安定化できます。
このようにアルミニウムを媒介とした電力の貯蔵および利用のサイクルをアルミエネルギーサイクルと言います。

アルミエネルギーサイクル研究会HPはこちら


CWレーザー推進

以前はCWレーザー推進について研究していました。
CWレーザー推進機について簡単に説明します。 ここでCWレーザーとはContinuous Wave=連続発振レーザーという意味です。 レーザーにはこの他にパルス状に発振するものもあります。くわしくはこちら
この推進機は地球や人工衛星などから照射されたレーザーを受けて、それをエネルギーに変換する機関です。 レーザーをエネルギーに変換する方法はいろいろあるのですが、私たちはレーザーからプラズマを作り(LSP)、それで推進剤を加熱する方法を研究していました。
右は、研究室で製作した推進機の作動実験中の写真です。


プラズマ風洞

レーザー推進機の排気ジェットを風洞として利用する研究もしていました。
たとえば地球や金星などにスペースシャトルが突入するとき、大気によってシャトルの表面はとても加熱されます。そういった機体の周りにある気体の影響をを地上で模擬するために、乗り物に風を吹き付ける装置を風洞と呼びます。くわしくはこちら


真空チャンバー

写真手前右側の窓からレーザーを導入し、チャンバー内のアルミナを加熱します。 チャンバーの側面に2つ観測窓が付いており、スペクトルの測定や、チャンバー内部の撮影が可能です。
レーザー維持プラズマの生成に使用する点火ロッドも装着可能で、プラズマ風洞としての利用も可能です。

2021年、チャンバーを新しく設置しました。 上記チャンバーの約10倍の大きさであり、従来不可能であった複雑な回収実験が実施可能です。また観測窓は3つに増え、多方向からの観測およびレーザー加熱が可能となりました。 2021年度以降実験でのメインチャンバーとして活用しています。


高出力CWレーザー

TEA CW CO2 レーザー

定格出力2kWの連続発振CO2レーザーです。ここから照射されたレーザーをビームエキスパンダーを通してビーム径を拡大したのち、ZnSeレンズを用いてアルミナに集光します。

品番:YB-2000B7 (松下電器、現パナソニック)

半導体レーザー

2022年、定格出力1.5kWの半導体レーザーを新たに設置しました。CO2レーザーの波長帯ではプラズマがついてしまうためにできなかった、高圧条件でのレーザーアブレーション実験をすることが可能になります。

品番:MFSCー1500


原著論文
Laser spot size and preheating effects on alumina reduction using laser ablation,
Seiya Tanaka, Shin Yamada, Kimiya Komurasaki, and Hiroyuki Koizumi, Journal of Thermophysics and Heat Transfer, Published online, (2020).

Characterization of Reduction Products Generated by Laser Ablation of Alumina,
Shin Yamada, Seiya Tanaka, Kimiya Komurasaki, Rei Kawashima, and Hiroyuki Koizumi, Journal of IAPS, Vol.26 (2018), No.1, pp. 33-38.

Alumina reduction by laser ablation using a continuous-wave CO2 laser toward lunar resource utilization,
Seiya Tanaka, Shin Yamada, Kimiya Komurasaki, Rei Kawashima, and Hiroyuki Koizumi, Vacuum, (2017).

Alumina Reduction by Coupling Laser Ablation and Laser Sustained Plasma,
Soichiro SANO, Ryota SOGA, Maximillian Frank, Kimiya KOMURASAKI, Hiroyuki KOIZUMI, and Tsuruo KOBAYASHI, Frontier of Applied Plasma Technology, Vol.9 (2016), No.2, pp. 49-54.

Alumina reduction by laser sustained plasma for aluminum-based renewable energy cycling,
Makoto Matsui, Naohiro Fukuji, Masakatsu Nakano, Kimiya Komurasaki, Yoshihiro Arakawa, Tetsuya Goto, Hirofumi Shirakata, J. Renewable Sustainable Energy 5, 039101 (2013).

発光分光によるレーザープラズマ風洞気流の気流特性とアルミナ還元効率の評価,
福路直大、松井信、山極芳樹、中野正勝、小林明、小紫公也、荒川義博、後藤徹也、白形弘文, プラズマ応用科学 Vol.21, No. 1, (2013) pp. 47-50.

国際学会
Aluminum Collection by Heterogeneous Condensation in Alumina Laser Reduction for Lunar Regolith,
Seiya Tanaka, Shin Yamada, Kimiya Komurasaki, and Hiroyuki Koizumi, The 2020 AIAA Propulsion and Energy Forum, online, August, (2020).

Effect of Preheating in Alumina Reduction using Laser Ablation Toward Utilization of Lunar Resources,
Seiya Tanaka, Shin Yamada, Kimiya Komurasaki, Rei Kawashima, and Hiroyuki Koizumi, The 2019 AIAA Propulsion and Energy Forum, Indianapolis, America, August, (2019).

Aluminum Collection at Close Range from Laser Ablated Alumina toward Aluminum Smelting from Lunar Regolith,
Shin Yamada, Seiya Tanaka, Kimiya Komurasaki, Makoto Matsui, Rei Kawashima, and Hiroyuki Koizumi, 32nd ISTS, Fukui, Japan, June, (2019).

Alumina Reduction by Laser Ablation Using a Continuous-Wave CO2 Laser Toward Aluminum Energy Cycle,
Seiya Tanaka, Shin Yamada, Kimiya Komurasaki, Makoto Matsui, Rei Kawashima, and Hiroyuki Koizumi, The 2018 AIAA Propulsion and Energy Forum, Ohio, America, July, (2018).

Alumina Reduction by Laser Ablation Towards Use of Moon Resources,
Seiya Tanaka, Soichiro Sano, Ryota Soga, Kimiya Komurasaki, Hiroyuki Koizumi, and Rei Kawashima, Vacuum, The 11th International Symposium on Applied Plasma Science, Warsaw, Poland, September, (2017).

国内学会
月資源レーザー還元法におけるレーザー照射アルミナ表面でのアルミニウム粒子生成,
田中聖也, 田中直輝, 小紫公也, 小泉宏之, JASMAC日本マイクログラビティ応用学会第32回学術講演会, オンライン, 2020年10月.

レーザーアルミナ還元におけるジルコニア混合によるプルーム温度上昇効果,
田中聖也, 佐藤彰太, 山田慎, 小紫公也, 小泉宏之, 日本航空宇宙学第51期年会講演会, COVID-19により中止, 2020年4月.

月面でのレーザーアルミナ還元に向けたレーザースポット径拡大の効果,
田中聖也, 山田慎, 佐藤彰太, 小紫公也, 小泉宏之, 第63回宇宙科学技術連合講演会, 徳島県, 2019年11月.

月面でのアルミナ還元に向けたアブレーションガス温度のレーザースポット径依存性の計測,
田中聖也, 山田慎, 小紫公也, 小泉宏之, 日本航空宇宙学会第50期年会講演会, 東京都, 2019年4月.

レーザーアブレーションを用いたアルミナ還元における試料予加熱によるエネルギー変換効率向上,
田中聖也, 山田慎, 小紫公也, 小泉宏之, 一般社団法人レーザー学会学術講演会第39回年次大会, 東京都, 2019年1月.

レゴリスからのアルミニウムおよび酸素の獲得を目指したCWレーザーアブレーションによるアルミナ還元,
田中聖也, 山田慎, 小紫公也, 小泉宏之, 川嶋嶺, 日本航空宇宙学会第49期年会講演会, 東京都, 2018年4月.

Alumina reduction by CW laser ablation towards metal recovery from regolith,
田中聖也, 山田慎, 小紫公也, 小泉宏之, 川嶋嶺, 第37回宇宙エネルギーシンポジウム, 神奈川県, 2018年3月.

修士論文
2019
アルミナレーザー還元における生成アルミニウムの不均一凝縮核生成による回収
2018
レーザーアブレーションアルミナ還元手法における試料予加熱による還元率向上
2011
レーザー維持プラズマを用いたアルミナ還元技術に関する研究

学士論文
2020
レーザー加熱を⽤いたアルミナ還元におけるアルミニウム粒析出・蒸着現象の研究
2019
ジルコニア混合によるレーザーアルミナ還元率向上
2017
アルミナのレーザーアブレーションにより生ずるAl-O系プルームの回収板付着実験
2016
月資源利用を目指したレーザーによるアルミナアブレーション還元実験
2015
レーザー維持プラズマによるアルミナアブレーションガスの還元実験
2014
CO2連続レーザーによるアブレーション実験
2013
レーザーアブレーションによるアルミナ還元の基礎研究

共同研究
日本エクス・クロン(株) 2012.1.1.- 「プラズマジェットによる酸化アルミニウム還元技術」
アルミエネルギーサイクル研究会

<関連研究先>
静岡大学 松井信研究室
都立産業技術高専 中野正勝研究室

科研費
挑戦的萌芽研究 2017-06-30 – 2020-03-31 「月資源利用を目指した先進的アルミナ還元技術の研究」
挑戦的萌芽研究 2014-04-01 – 2017-03-31 「レーザープラズマ風洞を用いた革新的アルミナ還元技術」