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ホールスラスタ実験

当研究室では1990年代より推進機の設計開発が行われています. 当研究室は将来の大電力アノードレイヤ型ホールスラスタ開発を目指す「RAIJINプロジェクト」参加しています.得られた研究成果を将来の大電力推進機に還元していくことを目指し,UT-58を用いた各種実験を行っています.


アノードレイヤー型スラスタUT-58

従来研究を背景として2013年度に開発されたUT-58推進機は,放電室中心径58 mmのアノードレイヤ型推進機です.下記に示すように,この推進機を用いて様々な実験を行っています.


マグネティックシールディング(MS)

MSは2011年に米国で発案されて以降,ホールスラスタの損耗低減方法として世界的に注目されている技術です.当研究室では,アノードレイヤ型にこのMS技術を適用することで損耗を大幅に低減し,ゼロ損耗推進機の実現を目指し研究を行っています.
Drawing
Fig. 1 TAL型スラスタへのMS適用


放電振動の低減

アノードレイヤ型推進機の欠点として,放電に伴う大きな放電振動現象が挙げられます.宇宙機搭載にむけて放電振動を低減する技術開発が求められており,UT-58推進機を用いて振動現象の解明や振動低減技術の開発に取り組んでいます.
ホールスラスタ研究では、スラスタの軸対称の構造的な特徴から、周方向のプラズマ特性は普段均一と仮定されてきました。だが、実際には周方向での非一様性は存在しており、過去の研究では推進剤供給においてその非一様を強制に高めることによって、放電振動振幅が収まる効果があることを確認しました。本研究では、周方向のプラズマ特性の実験的また数値解析的な研究を通して、非一様性による放電振動抑制のメカニズムやホールスラスタにおける放電振動不安定問題を解決するための方法に取り組んでいます。
Drawing
Fig. 2. 4分割放電室のホールスラスタ(左)、周方向非一様性作動(右)


代替推進剤の検討

Xeに代わる推進剤を用いることで,宇宙機コストの低減が期待されます.代替推進剤の候補として,ArやKr(希ガス),ヨウ素などを用いた実験を行い,その作動特性を評価しています.
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Fig. 3 Xe (左) およびAr(右)での作動
  1. Bak, J., Hamada, Y., Hirano, Y., Komurasaki, K., Schonherr, T., and Koizumi, H., "Operational Properties of UT-58 Anode Layer Hall Thruster with Modified Magnetic Field and Guard-ring Material," 52nd AIAA/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference, 2016, pp. 1-10.
  2. Fukushima, Y., Yokota, S., Komurasaki, K., and Arakawa, Y., "Discharge Stabilization for an Anode-Layer-Type Hall Thruster by Azimuthally Nonuniform Propellant Supply," Journal of the Japan Society for Aeronautical and Space Sciences, vol. 58, 2010, pp. 8-14.
  3. Fujita, D., Kawashima, R., Ito, Y., Akagi, S., Suzuki, J., Schonherr, T., Koizumi, H., and Komurasaki, K., "Operating parameters and oscillation characteristics of an anode-layer Hall thruster with argon propellant," Vacuum, vol. 110, 2014, pp. 159-164.

HET Simulation

ホールスラスタのプラズマに適用される数値計算モデルには、流体モデル、粒子モデル、ハイブリッドモデルの3種類があります。

本研究室では粒子モデルとハイブリッドモデルを主に取り扱っています。


Hybrid models

ハイブリッドモデルでは、イオンなどの比較的重い粒子は粒子として取り扱い、軽い電子は流体として取り扱われます。 この方法は、重い粒子を動力学的にモデル化できるため、スラスタのプラズマの希薄で非マクスウェルな特徴を捕捉することができ、また、電子を流体としてモデル化するため、電子を粒子としてモデル化する場合に比べて計算コストを格段に抑えられます。 ドメイン全体に適用される簡単なボルツマン関係から、保存法に基づくより洗練された流体モデルまで、さまざまな流体モデルが電子のモデリングに利用できます。
そして近年、本研究室では準中性プラズマとホールスラスタの磁化電子流体の異方性拡散方程式を解くための双曲型方程式系(hyperbolic-equation system;HES)を用いた新しいモデルを開発しました。楕円方程式を使用する従来の手法では、交差拡散項に起因する数値的不安定性があります。一方、HESによるアプローチでは、交差拡散項の処理を回避します。 HESは別の変数の勾配を含む新しい変数を導入することによって構築されています。 テスト計算から、HESは強い磁気閉じ込めの問題を風上法を用いて解決できることが明らかになりました。

上記の特徴から、HESを用いたハイブリッドPIC法は、ホールスラスタ放電の基本特性を再現することができると期待されます。


Electron fluid equations in HES approach

\begin{equation} \frac{n_e}{\beta T_e}\frac{\partial \phi}{\partial \tau} + \nabla\cdot(n_e\,{\bf u}_e) = 0 \end{equation} \begin{equation} \left ( \begin{array}{ccc} b_x & \\ & b_y \end{array} \right )^{-1} \frac{\partial (u_{ez})}{\partial \tau} - [\mu] \nabla \phi = - u_e \end{equation}

Drawing

Fig. 1 Thermalized ポテンシャルと磁力線のポテンシャルライン (a): アノード付近. (b): チャンネル出口. (c): プルーム領域.
  1. R. Kawashima, K. Komurasaki, T. Schonherr, "A flux-splitting method for hyperbolic-equation system of magnetized electron fluids in quasi-neutral plasmas," Journal of Computational Physics, Vol. 310, pp. 202-212, 2016.
  2. R. Kawashima, K. Hara, K. Komurasaki, H. Koizumi, "A Unified Model for Axial-Radial and Axial-Azimuthal Hall Thruster Simulations," AIAA Propulsion and Energy, Salt Lake City, UT, July 25-27, 2016.
  3. R. Kawashima, K. Komurasaki, T. Schonherr, "A hyperbolic-equation system approach for magnetized electron fluids in quasi-neutral plasmas," Journal of Computational Physics, Vol. 284, pp. 59-69, 2015.
  4. R. Kawashima, T. Schonherr, K. Komurasaki, "Modeling of Electron Fluids in Hall Thrusters Using a Hyperbolic System," AIAA Propulsion and Energy, Cleveland, OH, July 28-30, 2014.


Kinetic models

粒子法では、イオンと電子の両方が粒子として取り扱われます。 連続体仮説を用いないため、流体モデルよりも利点があり、移行または希薄領域におけるプラズマに適している。しかし、すべてを粒子として取り扱うことにより、計算量が膨大になってしまう欠点があります。 これは電子はイオンよりも数桁軽いので、電子の運動を解くためには、イオンの運動のみを解くのに必要な時間刻みよりも600倍程度小さい、はるかに小さい時間刻みを使用してその動作を解決する必要があるためです。 この大きな計算時間の問題を克服するために、例えば、人工質量比および人工誘電率のような過程が用いられます。
本研究室ではホールスラスタ放電および寿命シミュレーションのために2D完全粒子モデルが開発されました。計算コストの課題を克服するため、人工質量比のモデルと半陽解法のフィールドソルバーを採用しています。一方、人工誘電率や幾何学的スケーリングは使用していません。

また弱い磁場領域における電子の移動度の物理を正確に捉えるため、人工質量比に関して新しいモデルを提唱しました。 このモデルの有用性をパラメトリックスタディによって研究し、ラボサイズのSPTスラスタの推力および壁面損耗率を様々な運転条件に対してモデル化しました。 そのモデルを用いた計算結果は、数値パラメータを調整することなく、10%未満の差で測定結果を再現できました。
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Fig. 2 ポテンシャル分布
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Fig. 3 磁束密度 14 mT (左) および 21 mT (右)に対しての電子密度.
  1. S. Cho, K. Komurasaki, Y. Arakawa, "Kinetic particle simulation of discharge and wall erosion of a Hall thruster," Physics of Plasmas, 20, 063501, 2013

PPT Experiment

What are difficulties of Solid Propellant PPT?

機構の簡便性、またそれに起因する軽量性により小型衛星の主推進として活躍が期待されるPPTですが、問題点も存在します。固体推進剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いるPPTには以下の様な問題点があります。

1. 放電終了後も熱くなった推進剤表面から推進剤が供給されてしまう(レイトタイムアブレーション).
2. 排気されたPTFE中の炭素やフッ素が衛星の他の部分に付着し悪影響を及ぼす(コンタミネーション).
3. 推進剤が不均一な消費を起こす(推進剤の片減り).

1.の問題はPPTの効率を下げている主要因の一つとして考えられているものです.主放電終了後に供給された推進剤は電気的な加速を受けず気体力学的な加速しか受けないため、十分に加速されないまま排出されてしまいます.
2.の問題はPPTの推進性能には影響しませんが、ミッション内容によっては非常に重要となってきます。黒い炭素がこびりついたり反応性の高いフッ素がこびりつくことによって衛星の他の部分、コンステレーションの場合には他衛星に悪影響を及ぼす可能性があります.
3.の問題はPPTが受動的な推進剤供給機構となっているために起こる問題です。PPTは推進剤表面から推進剤が昇華し,その分後ろから推進剤を押しだす供給機構となっているのですが,実際には表面上で均一に消費しないのです.


Liquid Propellant PPT

これらの問題を解決する方法として、私たちは液体推進剤PPTを提案しています。液体推進剤PPTの模式図を下に示します。


液体推進剤PPTの模式図



液体推進剤PPTの固体推進剤PPTとの大きな違いはその推進剤供給機構です。液体推進剤PPTはタンクの中に蓄えられた液体を噴射器を用いて微少量投入し、それとタイミングを合わせてイグナイタを点火します。液体推進剤PPTは、固体推進剤PPTには無いいくつかの特長を持っています。その特長とは

1. 推進剤を噴射器で能動的に供給する機構のため、レイトタイムアブレーションの問題を回避できる。
2. 同様に推進剤の片減りの問題も回避できる。
3. 水は大抵の場合衛星の他の部分に無害であるため、コンタミネーションの問題も回避できる。

このように液体推進剤PPTには固体推進剤PPTの抱える問題点を解消できる可能性があるのです。しかしながら、当然真空化で液体を扱うことや、噴射器の設計が難しいこと、水をプラズマ化するのが難しいことなど液体推進剤PPTにも多くの問題点があり、私たちは日々その解決策を探っています。

Develpment of High Performance PPT for Lunar Mission BW-1

柏のPPT班では月探査衛星プロジェクトBW-1の主推進系としての搭載を目指し高性能固体推進剤PPTの研究を行っています。このPPTはIRS(Institute of Space Systems)によって開発され、本研究室においては主に内部現象の解明を行っています。

このPPTは実験により放電回路パラメータ、電極形状の最適化が行われており、比推力およそ2700秒というこのエネルギークラスのPPTとしてはかなりの高比推力を達成しています。特徴としては、フレア角を持つ先細三角形電極、複数キャパシタ、Side-fed型であることなどです。

本研究室ではこの研究や、他の研究のためドイツシュツットガルト大学より研究留学生を迎え入れています。彼らが日本語を勉強する一方で、私たちは英語で活発な議論を日頃より行っています。

ADD SIMP-LEX Lunar Mission BW-1

 


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