マイクロ波ロケットの原理

プラズマ着火時の映像

 本研究グループでは、繰り返しパルス型マイクロ波ロケットの研究を行っています。この方式の推力発生メカニズムを説明します。

 高出力のマイクロ波ビームを集光器と呼ばれる鏡で集光させると、焦点付近に非常に強いエネルギーが集まります。強いエネルギーが集められることにより、焦点付近の空気が大気放電を起こし、プラズマという状態になります。プラズマは電磁波のエネルギーを吸収する性質を持ち、マイクロ波のエネルギーを吸収して数万度近い超高温となって爆発現象をおこします。この爆発の威力が集光器に伝わることで、推進力となります。
 マイクロ波を、パルス的、つまり断続的に繰り返し投入することでこの爆発を何度も発生させ連続的に推力を発生させます。
 マイクロ波ロケットは大気中において空気を燃料にすることができるため、集光器さえあれば推力を発生させることができ、非常にシンプルな推進システムと言えます。

解説アニメーション

 繰り返しパルス型マイクロ波ビーミング推進の推力発生メカニズムをアニメーションで表すとこうなります。

 本研究では、実際にマイクロ波を投入して発生する推力を測定しました。これまでの研究によれば、レーザーを用いた同じようなシステムで得られた性能を上回る推力を発生させられることが明らかになっています。
 本研究では、推力の発生メカニズムを明らかにすると同時に、そこで重要な役割を果たしているマイクロ波プラズマの性質について研究を進めています。

マイクロ波ロケットの推進原理の説明

マイクロ波ロケットの推進原理の説明

マイクロ波プラズマについて

 マイクロ波を用いたプラズマの生成方法にはいくつか種類があります。ひとつは、小惑星探査機はやぶさのイオンエンジンμ10において採用されたECR(Electron Cyclotron Resonance)方式です。この方法は、磁場中で螺旋回転する電子の回転周波数とマイクロ波周波数を同期し続け共鳴させることで電子を加熱し、プラズマを生成するというものです。一方で、マイクロ波ロケットで用いる方法は、大電力のマイクロ波を使用して大気中で放電を引き起こし、プラズマを生成します。その特徴を以下に説明します。

 まず第一に、マイクロ波プラズマがマイクロ波発振源に向かって進展し、その速度がマイクロ波のビーム強度に比例して変化するという特徴があります。マイクロ波プラズマの進展速度はマイクロ波ロケットの推力に大きく影響するため、ビーム強度を調整することでロケット打ち上げに最適な推力を発生させることができます。

 続いて第二に、マイクロ波プラズマが多くの形状に変化するという特徴もあります。プラズマの粒が等間隔に並んでマイクロ波源に進展する櫛状構造、強力な静電場で発生するストリーマ放電に非常によく似ている構造、波長の4分の1の間隔でプラズマが発生する構造が観測されています。これらの構造はマイクロ波のビーム形状、電力密度、周辺圧力によって変化します。

 しかしながら、マイクロ波プラズマがなぜその速度で進展するのか、ビームの強さや周辺圧力によってなぜ放電構造が変化するのか、未だ解明されていません。