ジャイロトロン

170GHzジャイロトロン。量子科学技術研究開発機構 RF加熱開発グループ

 マイクロ波ロケットの研究で使用されているミリ波帯のマイクロ波を発振させる装置はジャイロトロンと呼ばれるものです。波長が短いミリ波を大出力で発振させることは長らく困難なことだと考えられていました。しかしながら、1960年代にロシアで開発されたジャイロトロンは、その困難を解決し、現在はマイクロ波発振装置の中でも特に大出力の発振装置へと発展しました。ジャイロトロンは、1億度を超える超高温を維持させる核融合炉の加熱装置として注目され、集中的に研究開発が進められています。現在はミリ波帯のジャイロトロンで、最大出力が2 MW ( = 2,000 kW) を超える大出力管も出現しています。

 本研究にご協力いただいているのは、量子科学技術研究開発機構(QST) RF加熱開発グループ、筑波大学プラズマ研究センター、福井大学遠赤外領域開発研究センターです。QSTでは国際核融合炉ITER計画に向けて、170 GHz、1 MWジャイロトロンの開発に世界に先駆けて成功しています。大出力ジャイロトロンの開発により、マイクロ波ロケットという新しい分野の研究が開始されたといっても過言ではないでしょう。

ジャイロトロンの原理

東大ジャイロトロン管 UT-94 の内部構造と外観

 ジャイロトロンは、サイクロトロン共鳴メーザー現象CRMs(Cyclotron resonance maser)を利用して、磁力線に沿って回転する電子の運動エネルギーをマイクロ波のエネルギーに変換する真空管です。ジャイロトロンの名称は回転を意味する「ジャイロ」に由来します。

 電子銃に100 kVほどの高電圧を付加することにより大出力の電子ビームを引き出します。引き出された電子ビームは、超電導磁石によって印加された磁力線に沿ってらせん運動をしながら共振器に移動します。そして、共振器で電子の回転エネルギーの一部がマイクロ波のエネルギーに変換されます。エネルギーを失った電子ビームはコレクタによって回収され、発振されたマイクロ波は人工ダイヤモンドを通して真空管内から大気中に放射されます。

 東京大学小紫研究室では,周波数94 GHzのジャイロトロン UT-94 を開発し,サブメガワットのミリ波出力およびそれを用いた大気圧でのプラズマ観測に成功しました。この開発は、国内のジャイロトロン開発に取り組む研究機関と共同で行われました。今後、独自のジャイロトロンを用いて推力発生メカニズムを詳細に調べることで、推進性能の向上を目指します。